もっと美味しい時間
「もうっ、痛いなぁ」
摘まれた鼻を擦り、でも心は温かくなりながらリビングに戻ると、玄関のチャイムが鳴った。
「美和せんぱ~い、忘れ物ですか?」
小走りに玄関に急ぎ、誰かも確認しないでドアを勢い良く開けると……。
「お前、何度言ったら分かるんだよっ!! ちゃんと確認してから開けろって言ってんだろっ!!」
「あれ? 慶太郎さんだったんだぁ。美和先輩に会わなかった?」
「若月か? 会ったけど。なぁ、俺の話聞いてるか?」
「聞いてる聞いてる。気をつけます! 今さっき先輩が出て行ったから、まさか慶太郎さんだとは思わなくて……」
それを聞いた慶太郎さんが大きな溜め息をつくと、私の頭をグシャグシャと撫でた。
「いつになったら成長するのか、でもそこが百花らしいと言うか……」
はいはい、私はいつまで経っても子供ですよ。こんな私でも30くらいになれば、もう少しマシな大人になれるのかしら……。
少しだけ情けない気持ちで慶太郎さんを見上げ、苦笑しながらいつまでも頭を撫で続ける慶太郎さんの手を払いのけると、キッチンへと逃げ込んだ。
慶太郎さんがこんなに早く帰ってくるとは思ってなくて、まだ晩御飯の支度はしていない。冷蔵庫を開けて中を覗き今晩のメニューを考えていると、スルッと腰に逞しい腕が回ってきて、ギュっと抱きしめられてしまった。