もっと美味しい時間  

うん? いったい、どうしたと言うんだろう。
目の前の女性の顔が、見る見るうちに冷たく変わっていく。
私の身体を、頭のてっぺんからつま先までじっくりと見ていくと、クスっと嘲る。
その、人を小馬鹿にしたような態度にイラッとした。しかし荷物を持ってもらった手前、文句が言いにくい。グッと堪えていると、また元の笑顔に戻し女性が私に近づいた。

「はい、荷物。あ~、なんか今まで心配してたのがバカみたい。これなら楽勝じゃない」

「はい?」

「いえいえ、こっちの話。彼のために今晩は何を作ってあげるの?」

「いろいろ和食を作ろうかと……」

「ふ~ん……」

何が言いたいんだろう。この人、思っていたような女性じゃないのかもしれない。私の直感が、そう知らせている。これ、女性に限ってはよく当たるんだよね。
荷物を受け取るとお礼を言い、急いでその場から離れた。
昨日と言い今日と言い、何で私はマンションの前から逃げるように中に入らないといけないんだろう。荷持は重いし、ふんだり蹴ったりだよ……。

部屋へと戻ると投げ出すように荷物を置き、ソファーに転がり込む。

「すっごく疲れた……」

身体も心もヘトヘトだ。
それにしてもあの女性……。慶太郎さんと何か関係があるのかなぁ。
ムクッと身体を起こすと、のろのろと窓際まで歩いて行く。そこから隣のマンションが見えた。

「もう会いたくない」

無理矢理忘れようと頭をブンブン振ると、クラっとしてその場に尻餅をつく。

「もぉ~痛いっ!!」

当たる相手がなく床を強く叩くと、買い物の荷物を片付けるために立ち上がった。



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