もっと美味しい時間  

「ヤキモチ焼いてる?」

ばっと顔を上げて慶太郎さんを見ると、バツの悪そうな顔をした。
やっぱり……。

「まだヤキモチ焼いてくれるんだ……」

「まだって何だよっ!! 俺達の関係が終わったみたいな言い方するなっ」

「だって……。そうなるのも時間の問題かと……」

「はあっ!? 意味が分からん」

呆れたようにそう言い放つと、抱きしめる腕に力が加わった。
その強さに、何故だか慶太郎さんの寂しさと辛さを感じる。
どうして慶太郎さんが? 
その意味を探るかのように、自分からも慶太郎さんに強く抱きついた。

「なぁ百花。前にも言ったかもしれないが、俺だって普通の男だぞ。好きな女の事でなら取り乱すし、ヤキモチだって焼く。カッコ悪いけどな……」

「…………」

「綾乃のことも、もっと早くに話しておくべきだった。ごめん。俺何してんだろうな……。お前を悲しませないなんて言っといて、こんなにも不安にさせてるなんて」

慶太郎さんの身体が小さく震えだす。
こんな慶太郎さん初めてだ。いつだって強気で上から目線。甘えることはあっても弱さを見せることなんてなかった。
私、何やってるんだろう……。
自分だけが悲劇のヒロインに浸っちゃって、慶太郎さんの気持なんて全く考えてなかった。
離れて生活するようになって寂しかったのは、私だけじゃないんだ。慶太郎さんだって、私と一緒にいられないことに不安を感じていたんだ。
それに今気づいた。

「ごめん……なさい。勝手なことばっかり言って……」

「百花は何も悪くない。俺が不甲斐ないだけだ。だけど、これだけは信じて欲しい。俺が愛してるのは百花、お前だけだ」

切なく話すその言葉に、胸が苦しくなる。
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