もっと美味しい時間
美和先輩の実家と聞いても小さくなっている私たちを見て、苦笑しながら先輩が個室から出ていった。
「お、おいっ、藤野。びっくりしたな」
「うん、かなり驚いた。先輩って、お嬢様だったんだ」
「似合わないな」
「しーっ!! 本当のこと、大きな声で言わないのっ!」
「……誰が似合わないって?」
おぉっ!? 個室入り口の襖にもたれかかって腕を組んでいる、美和先輩。
まるで忍びのように、音も立てずに現れないで下さいよ……。
目を合わさないように下を向いていると、美和先輩じゃない声に顔を上げた。
「ようこそ、おいで下さいました。料亭若月の女将、若月早苗。美和の母でございます。いつも美和がお世話になっております」
正座をし深々と頭を下げる女将さんに、慌てて頭を下げた。
「い、いえ。こちらの方こそ、美和先輩にはお世話になりっぱなしでして……」
もう一度頭を上げると、またまた美人な女性に声を失う。
あ、あれ? 美和先輩って私と1歳しか年、違わないよね? なのに、こんな若いってどういうこと?
恐る恐る心の中の疑問をぶつけてみた。
「先輩? お母さんって、後妻さん?」
美和先輩と女将さんが、顔を見合わせて笑い出した。
「百花、最高っ!! これでも母さん50歳だよっ」
「嬉しいわぁ~。百花ちゃんって、可愛いわねぇ~」
ご、ごじゅう~っ!?
あり得ないあり得ないっ!!
隣にいる寺澤くんも、唖然として口を開けていた。