もっと美味しい時間  

「じゃあ、さっき入口に出てきてくれた人は誰……でしょうか?」

美和先輩に敬語を使い、笑われる。
だって、この雰囲気ではしょうがないでしょっ。
そう美和先輩に目線で送ると、またも笑われて頬を膨らます。

「あぁ、美月のことね。あの子は私の娘で美和の姉よ」

あはははっ……。どうりで美人のはずだ。
と言うことは……。
女将さんから美和先輩へと視線をずらす。
性格が若干男っぽいから見過ごしてたけど……よく見ると、先輩も美人さんだよなぁ。腕組みして、うんうんと頷いていると、寺澤くんが耳元に顔を寄せた。

「また一緒のこと、考えてるだろ?」

心、読まれてた……。
美和先輩も気づいたのか、目が怖い。
誤魔化すように愛想笑いをすると、女将さんがうふふと素敵な笑みを湛えた。


女将さんが部屋を出て行くと、次々に運ばれてくる美味しそうで手の込んだ料理の数々。食べてしまうのがもったいないくらいの鮮やかさに、目を奪われる。
隣では我慢も限界なのか、寺澤くんがゴクリと生唾を飲み込んだ音が聞こえた。

「二人を見てると、ほんと飽きないよ。さっ食べよ食べよ」

美和先輩がそう言って箸を持つと、待ってましたと言わんばかりに寺澤くんが声を上げた。

「いただきまーすっ!!」

まるで「待てっ!!」とお預けを食っていた犬のように、キラキラとした目で食べている寺澤くんを見て『やっぱり子犬ね……』と思ったことは黙っておこう。
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