もっと美味しい時間
美味しいものを食べて、お腹がいっぱいになれば、嫌なことなんて全部忘れられる。そう思っていたのに……。
あれは紛れもない現実で、避けて通れることじゃないのに……。
綾乃さんのグロスがたっぷり塗られた艶やかな唇が、慶太郎さんの唇にゆっくり重なり……。
そのシーンを思い出すと、固く目を閉じた。
「……い、おいっ!」
「えっ?」
「どうした?」
心配そうな京介の顔。
その顔を見て、自分が荒く息をしているのに気づく。
「ごめん、何でもない……」
さっきまで勢い良くお好み焼きを口に運んでいた、箸を持った手が止まる。
大きく溜め息をつくと、じわっと目に涙が溜まってきた。
せっかく京介が気を使って食事に誘ってくれたのに、こんなんじゃ楽しかった雰囲気が台無しだ。
アイメイクが取れるのも気にしないで目をゴシゴシ擦ってみても、一度出てしまった涙は止まらないわけで……。
ほんと私ったら、情けない。
慶太郎さんと綾乃さんのキスシーンを思い出して泣くぐらいなら、何であの時、キスする前に、『慶太郎さんから離れてっ!』って叫ばないのよっ!!
今頃になって後悔したって、遅いって言うのっ!!
京介がいるのも忘れて髪を掻き乱していると、その手をガシっと捉えられ大きな胸に抱きしめられてしまった。