【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~

車に飛び乗り重量感のあるエンジン音を響かせてアクセルを強く踏み込む。

フルスピードで木々の緑を切るように駆け抜ける赤いポルシェは、通常では体感できない速度で山道を下っていった。

木々の緑が形を成す事無く視界から飛び去り、視野は通常より遥かに狭い。

アマチュアレーサーとしての顔をもつ紀之さんの腕は一級品だ。

巧みな運転技術は確実に香織の車との距離を縮めていった。

市街地を抜け高速へ向かう道は、夏場はいつも渋滞する。

香織の車もそれは間逃れない事を、カーナビに表示される彼女の車の位置が示していた
浅井家で所有する全ての車に、位置確認用の発信機が付けられていたことに、今日ほど感謝したことは無かった。

香織の位置を確認しながら運転技術を駆使して裏道を進む紀之さんは、渋滞を物ともせず進んでいく。

この分なら香織の車が高速に乗る前に何とか追いつけそうだと、少しだけ見えた希望に縋る思いで彼女の無事を願った。

そんな僕の姿がどう映ったのか、紀之さんは不意に皮肉混りの口調で問いかけてきた。


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