神名くん
私たちは急に表れた白い椅子にお互い向かい合う形で座ることになったのです。先生からきくと、どうやらここは私の中だと言うことです。私、山本仁乃の心理的なものの中で、本当は人間には魂一個しか受け付けない器がどうやら私の場合は自分のともう一人分が空いていた様で。そのような人間がたまにいるらしいという話もしていただいた。そして、今私は私のその心理的な部分の最奥部で先生と向かい合って座っているという状況らしい。私の体は今、先生が動かしているということになるのです。
私は、先生と向き合いながら何を話したらいいのか正直に分かりません。分からないのですからお互いが沈黙となっていしまっているようで、先生は外界に集中しているのですから別にそこまで困ることではないのですが。その上、先生は瞼を閉じておられる。集中するにはそういうことをするのでしょう。私は初めての体験なので詳しくはわからないのですが。きっと、そうなんでしょう。
それにしても、あまりにも殺風景ではありませんか。私の中というのは。最初に言ったとおりですが辺り一面真っ白なのです。何もない空間には掛けられた絵などもちろんなく、ここまで白いと寧ろ私達がシミのようで、異物の存在に見えてくるものでした。きょろきょろとしてもそれは変わることがないので、再び先生に向き合うと、先生は閉じていた瞼を開いて私をただみつめていたのです。
それに驚いた私はつい、声にならない悲鳴をあげてしまったのでした。肩を大きく揺らして驚きを見せると、先生はくすりといつもの優しい笑みで笑うのです。女性であっても先生は先生なので性格は何やら変わっていないのでしょう。私は、その先生に少々惚れてしまいそうになったほどにその姿は様になっていたのです。いつも、くすりと笑う神名くんも凄く様になるのですが、久水先生の女性の姿もまた様になっていました。それに、少々懐かしさを覚えてしまったのですからつくつく私も過去を見やる人間なのだと思ってしまいました。