神名くん



先生が亡くなって今日で2日目。今日は、先生の御通夜が行われることでしょう。どうしてでしょうか、そのことも理解していますし、出席する気は全然あるのですが、ご本人がこの目の前に現れていると思うと、どうも実感がわかないものなのです。今日の現代文の状況を見ても、神名くんのお陰と言ったらあれですが皆さんは先生がもういないと理解して笑っているようにも見えました。



ですが、私はどうでしょう。笑うどころか先生を思い出し、皆が薄情だと思って泣きだしたのです。皆の心には先生の存在がいなかったのでしょうか。答えは否だと思います。先生は、生徒の中でも結構人気のあった方です。30代前半ということで、明るく生徒に親しくされた方です。授業も分かりやすいと評判で、男女問わずとよく先生に質問しに行く生徒が多かった気がしたからです。



そのためでしょうか、先生の周りにはいつも生徒があふれていた気がしました。そして、先生の姿が輝いているようにも見えたのです。そんな久水先生の姿は大きく、皆にとってはきっと大切だったに違いありません。忘れたわけではないのです。神名くんが変わりに笑わせたのです。私は、神名くんを毎日見ているので、新しい先生という存在は新鮮でも神名くんと言う存在は新鮮ではありません。ですからあのように昔の久水先生を思い浮かべ泣いたのでしょう。



そう、考えると私は神名くんに対して少々、いや、かなり迷惑行為と失礼に当たったに違いありません。それでも、彼は私に優しく接してくれたのです。「にの」と、皆の聞こえないような声音で私を読んでくれたのです。その言葉ひとつを思い出しただけで妙に温かくなりました。今の私は魂と言って実態のない存在なのですが、温かくなったのです。すると、辺りが真っ白だった景色が一瞬にして淡い橙色になったのです。



目を見張る状況でした。そして、幻想的な光景でした。薄い淡い橙が辺りを覆うというのはまるで夕焼けが教室を染めている様で、私は感嘆の息をもらしたのです。





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