スクランブル・ジャックin渋谷
 ハンドマイクを持ったあの機動隊の隊長が、群衆に向かって叫ぶ。

隊長「みなさん、踊るのを止めなさい。直ちに、止めなさい。さもないと、逮捕します。速やかに、この場から退去しなさいっ!」

 隊長は、何度も何度も退去命令を叫んだ。
皆、無視している。自分の世界に浸っている。

 隊長、機動隊員もウロウロするだけで、何一つ手が出せない。
 隊長は、しばし思い悩んだ。

隊長「俺、数時間前にも、ここにいたような気がするんだよなー」

隊員A「隊長もですか。自分も先ほど、ここに来たような記憶が残っているんですよ」

隊長「俺だけじゃ、なかったのか」

隊員B「隊長、警視総監から無線です」

 無線機を受け取る、隊長。
隊長「変わりました。警視総監…」

警視総監の声「総理大臣からの命令だ。選挙が控えているんだ、1人も死者を出すな。くれぐれも、鎮圧は慎重に実施するんだぞ」

隊長「ハイ、警視総監」
 そう言って、無線機を隊員Bに手渡す。

隊長「よーし、東大を首席で卒業したんだ。自分にできないわけがない。絶対に、警視総監になってやる」

 自分に気合を入れている。
隊長「おい、騒乱罪の鎮圧方法のマニュアル本を寄こせ」

 隊員A、分厚いマニュアル本を隊長に手渡した。

隊員A「鎮圧方法など、マニュアル通りにできるわけがないだろう。バーカっ」

 隊員Aは、影でヒソヒソと隊員Bの耳元でささやいた。
 隊長、マニュアル本をじっと目を凝らして読んでいる。
< 97 / 108 >

この作品をシェア

pagetop