抱き締めて言って?
その仕草に完敗。私の気持ちを捕らえる術を心得てる。

――おねだりの仕方。

「…」

距離感は変わらず。膝に乗っかったままの状態で無言で彼を見つめるしかない。でも先に折れるのはいつも私だってことを、彼も私も気づいてる。



「……キスして、いつもの…」

消え入るほど小さな声は絶対に彼に届いたはずなのに。全く動く気がないようで、まだ私を見てるだけ。

「ぎゅーって強く抱き締めて?」

彼の首に抱きついて耳元に囁きかける。

「もっと私に夢中になって?」

顔を埋めた首筋に口付ける。

「好きって……愛してるって私だけに言っ」


視界も感覚も全て奪われて頭が真っ白になる。強すぎる快感に溺れそうになるけど、彼の鼓動と温もりがそれを引き止めた。

ただ愛しさを感じる…。



「……んん…はぁはぁ……」

「……ホントに…誘惑がうまい子だね」

彼の胸に引き寄せられて荒い息を吐く私。いつもの啄むような吸いつくような心地よいキスをおねだりしたのに、それより情熱的に返してくれた。

彼の心臓の音も速いのは私の気のせい…?

嬉しくて満たされる気持ちを伝えるかのようにぎゅうっと抱きついた。そうしたら彼が、砂糖も蜂蜜もぜーんぶ注いだような甘い甘い声で愛を囁いた。


「愛してるよ。周りが見えなくなるくらい、俺は君に夢中だ」



end
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