抱き締めて言って?
私を悪い子だと言う彼は、優しい顔で見つめながら頭を撫でてくる。悪い子ならご褒美をくれるみたいにしないでよ、なんて口に出せない。願わくば、あなたの胸に閉じ込めて欲しいと思っているから。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼は私の前髪をよけて額にキスを落とした。
「……んっ」
唇へのキスをもらうために顔を上げて軽く口を尖らせると、優しかった彼の表情が一気に変わった。
それは言うなれば特別なカオ。私しか知らない。立場もしがらみも取り払った、唯一で最愛の私にしか見せない"恋人の顔"。
突き出した口に人差し指で触れると、それを押し当てた。
「姫は何をお望みかな?」
言い方1つで心がときめく。意地悪さの中に優しさがある。優しさの中に意地悪さを隠してる。
いつもは求めれば与えてくれるのに。今日はとことん焦らしてくるつもりらしい。それでも屈したくなくてジイッと彼を見つめた。
「ほら、言いな」
私の背中まで伸びる長い髪の毛を掬い取って彼は指先に絡ませた。
「おねだりの仕方は教えただろ?」
絡み取った髪の毛に口づけて、意地悪なカオをして挑発するように首を傾けた。