饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「大丈夫ですよ。騙すというか、まぁ言ってみれば、竜神が『騙されてくれる』んですよ。竜神だって、むやみに生き物を殺そうなどと思ってませんよ。腹は減ってるかもしれませんがね。だからこそ、生け贄の頭を落とした瞬間に食らいつくのでしょう。それが生け贄の頭でなくても良いのですよ。さっき放り込んだような、具沢山の饅頭のほうが、有り難いかもしれませんよ?」

 わなわなと震える老神官にも怯まず、にこりと笑みを浮かべて言う。

「大体、生け贄なんか、今時竜神だって引きますよ。その上生き物の中でも美味しくなさそうな頭しかくれないなんて、それこそ嫌がらせと思われて、暴れられたらどうするんです」

 ぺらぺらと口を突いて出る軽口は、よく考えたら馬鹿馬鹿しいと言えなくもない内容なのだが、極度の緊張から解き放たれた直後であること、また虎邪がそれなりの地位の神官であることなども手伝って、何となく老神官をも『そうかも』と思わせてしまう。

 黙り込んだ老神官に、虎邪は、ふと真顔になった。

「それに、実はこの方法も、ちゃんとした儀式なのですよ」

 きょとんとした表情で、老神官は虎邪を見る。
 最早声も出ないようだ。
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