饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「いやぁ、そんなに見つめられると照れるなぁ~。俺は別に、ここの神官が供物を横領してようと、どうでもいいんですよ。姫君とお近づきになるほうが、俺にとっては大事な仕事ですから」

 言いながら、ぐいっと姫の腰に腕を回して引き寄せる。

「このような鄙里で、かように美しい姫君に会えるとは。自分の力を信じて良かった」

 至近距離で覗き込む虎邪に、神明姫は我に返って慌てた。
 姫はまだ幼い。
 異性とこのように密着することなど、初めてだ。

「ひゃ・・・・・・あ、あのっ」

 真っ赤になって、わたわたと暴れる。
 その姿に、虎邪はまた、ふふ、と笑みを浮かべた。
 先のような馬鹿にした笑みではなく、自然に出た笑みだ。
 姫の鼓動が跳ね上がる。

「ねぇ姫君。俺がこんなところまで出張ってきたのは、運命的な出会いがあるからだと感じたからなのですよ」

「あわわわ・・・・・・」

「俺の力は本物だ。姫君、姫君も俺に、運命を感じたでしょう?」

 耳元に唇を寄せて言う虎邪にくらくらしながらも、神明姫は彼の腕から逃れようともがく。
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