饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「虎邪ぇっ! 怖いよぅ~っ!!」

 神明姫の肩を抱いている虎邪の、反対側の腕に、緑柱がしがみついているのだ。

「お化けが出るよぅ! こんな怖い森、早く出よう!!」

 涙目で訴える緑柱にも引かず、虎邪は慣れたもののように、ぶん、と腕を振って緑柱を離す。

「出るかい、そんなもん。全く、姫がしがみついてくれたら嬉しいのに」

 緑柱もそんな虎邪の扱いには慣れているようで、手を振り払われても、すかさず虎邪の背中の衣を掴む。
 その状態で、びくびく、という風に、虎邪の後ろにくっついた。

「緑柱はねぇ、ヒトは平気なんですけど、如何せんお化けに弱くてね」

 ぽかんとしている神明姫に、虎邪が言う。
 先程までは神明姫も怖かったが、あまりに意外な展開に、恐怖など吹き飛んでしまった。
 言い換えれば、むしろこの状態の緑柱のほうが、ある意味恐怖である。

「お化けなんか、殴れも斬りもできないんだぞ? どう足掻いたって、敵うわけないじゃないか!」

「はいはい」

 真剣に訴える緑柱をあしらいながら、虎邪は森の中を突き進んだ。
 しばらく歩いては、横を流れる川を覗き込む。
< 64 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop