地下世界の謀略
(────これは甘さ、だ)
以前なら簡単に捨て置けた。
見捨てられるほどの非情さも持ち合わせていたはずだし、それに躊躇いなど感じなかった、はず。
だが今回どうだ。
生易しい感情を捨てきれていなかったから、だから俺は自らを危険に晒すにも拘らず、この女と行動することを受け入れてしまった。
そこに、理由があろうとなかろうと、また俺は"荷"を抱えてしまったのだ。
「……、ん」
「……起きたか」
重々しく目蓋を上げた彼女は上半身を起こすと、周りを見渡して暫く状況把握を図っていた。そして俺を視界に入れるとようやく何かを納得したようだった。
「…昨日の、は?」
彼女の様子からして、昨日の機械が頭から離れていないらしい。
……目の前で破壊したのに、なお怖がるというのか。そう考えるとやはり彼女はまだ"綺麗"らしかった。
「もういない、…多分当分は現れないと思う」
勘、でしかない憶測だが。
「──そう」
納得しているようなしていないような、微妙な顔をして月は俯いた。アルトもかける言葉なく、顔を背けてしまう。
こういう時、どうしていいかわからない。
「あ、」
「?」
「…え、っと。助けてくれて、ありがとう」
「……別に」
「うん、でも本当に助かったから」
確かにあの時、俺が銃を打つ力を無くしていれば彼女は呆気なくこの世を去っていただろう。