ポチタマ事件簿① ― 都会のツバメ ―
「あ、ちょっと、ポチ!」
ポチは無視して歩き続けた。
後ろからタマの声が聞こえる。
「もう! ――大変だったのは分かるけど、ネクタイくらいちゃんとしていきなさいよ!」
ポチは返事をせずにそのままエレベーターに乗った。
ポチを乗せたエレベーターは静かに上昇を始めた。
同乗者はニヤニヤしているが、こういう時は無視するに限る。
「……おい、ポチ」
小声で声をかけられた。
同期の社員だ。
特に親しいわけでもないが、さすがに無視もできない。
「――おはよ」
「ポチ、いま出勤か?」
「まあな。一応、直行だけど」
ポチはマンション管理部に勤務している。
管理物件で何かあれば、会社へ出勤せずに、朝一番で直行するのだ。
自殺でもあった日などは、『朝一番』ではなく、『夜中の一時』ということもある――今日のように。