二度目の恋

第十三章

田園に実る稲は黄色く染まっていた。空き地には背の高いススキが生えわたっている。
少し冷たくなった風が通り抜けた。美月は二階の窓から風に当たりながら昔の微かな記憶を思い出していた。
 「ママ、ママ」美月は夕暮れ時の家の廊下を歩いている。「ママ、ママ」暫く廊下を歩き、角を曲がると一つの部屋がある。その部屋を覗いた。「ママ?」
 すると鏡台に向かい座って化粧をしている倉岡シャリーがいた。
「何処行くの?」
 美月が聞いた。
「ママ、出かけるわ。ちょっと遅くなるかもしれないけど、すぐ帰ってくるからいい子にしててね」
「パパは?」
「パパは、今日お仕事で帰れないって」
 シャリーは振り向いた。青い、目をしていた。フランス系アメリカ人で、髪の毛も金髪に透き通っていた。背も高く、足も細く、昔ファッションモデルをしていた。口元に黒子がある。それが特徴だった。
 シャリーは化粧を終わるとすぐさま立ち上がり、ベッドの上に置いてあったハンドバッグを持って部屋から出ようとした。
「美月、今日は一人なの。寂しがらないで」
「寂しくなんてないわ。慣れてるもの」
「ごめんね。食事はテーブルの上に置いてあるから」
 そう言うと部屋から走り去り、家を出た。美月は暫くすると階段を降り、テーブルに腰をかけた。テーブルの上に食事は乗っていた。お茶碗にご飯、器にみそ汁、お皿に鮭の塩焼き、小皿に納豆だ。シャリーはアメリカ人だが、日本料理を得意とする。いつもはキチンとした食事を作っているが、今日は夕食だというのに、まるで朝食のような食事だった。だが美月は慣れていた。たまにある。その時は必ずシャリーが出かけるときなんだ。美月はお茶碗に盛りついているご飯の上に納豆をぶち駆けると、それを美味しそうに口に含ませた。
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