二度目の恋
美月は家へ辿り着き、家の玄関のドアノブに手を当て、動きは止まった。しゃがんで玄関の床底を良くと見ると、所々に点々と赤く染まっていた。美月は咄嗟に立ち上がり「パパ、パパ」慌てて家の中に入った。玄関のドアを開けると明かりはついてなかった。靴を脱いで部屋の中に入ったとき、柔らかく、暖かい物が美月の足に感じた。美月は足元を見ると思わず息を引きつけ、その場を逃れた。
「いいマットだろ。丁度良いのがあったんだ」
 美月は咄嗟に声のする方へ見ると、直也がソファに座ってタバコを吸っていた。ソファからはみ出した頭だけが見えた。
 「パパ?」美月は精一杯声を出した。すると直也はソファから立ち上がり、美月に近づいてきた。美月は恐怖から体が硬直した。
 直也は美月に近づくとしゃがみ、マットを撫で始めた。
「この手触りが良いんだ。柔らかくて優しく感じる。この足やこの顔も完璧だ」
「これ……どうしたの?」
 声は引きつっていた。
「山で拾った……」
「パパが……殺したの?」
 美月は恐怖に脅え、小声で聞いた。
「何を言ってるんだ美月。パパがそんなことをする分けないだろ。山に行ったときに、死んでたんだ。そのままにしておくのも可哀想だ。パパはこいつが何処の誰かも知らん」
「リュウなの。この犬、リュウなの」
「リュウって言うのか。初めて知ったな」
「なんで、山に行ったの?」
「パパだってたまには山に行きたくなる。あの、匂いが好きなんだ」
「パパが殺したんだ……パパが殺したんだ……パパが殺したんだ!」
 美月は思わず感情的に叫んでしまった。すると、直也は立ち上がり、美月は少し後退んだ。直也は美月の体に自分を近づけた。
「美月……パパは殺(や)ってないよ」
 そう言うと美月の肩に手を組んだ。
「パパは、殺(や)ってないよ」
 直也は美月の耳元で、囁き歩いていった。
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