二度目の恋
自転車のベルが鳴った。美月は窓から顔を出し、風に当たっていた。「美月!」遠くからそう名を呼ぶ声がした。愁が自転車を駆けてきた。「美月!」愁は叫んだ。美月が窓から顔を出しているのを見つけ喜び自転車を走らせたが、美月は愁の呼び声に驚いて思わず窓を閉め、部屋の中に顔を引っ込めてしまった。「美月……」家の前で自転車を止めた。<なぜ、逃げるの?>愁は悲しい思いがした。もう一度叫んだ。「美月!、美月!、何で僕と会わないの?」美月は窓辺の影に隠れて愁の様子を見ていた。「僕、何かした?」ジッと、愁の言葉を聞いていた。「今日、手紙、持ってきたよ。美月に手紙、届けたの、初めてだけど、宛名、無いんだ。倉岡美月宛……としか、誰からか分からないけど、美月に届いたの。ここ、玄関においとくから」一通の手紙を玄関のドアの前に置くと、自転車を押しながら歩いた。美月はその様子を部屋の影から見ていた。
 美月は慌てて一階に下りた。玄関の前に辿り着くと、少し警戒し、そっとドアを開けて手紙を素早く取った。愁は自転車を押してゆっくり歩いて振り返り、美月が手紙を取る瞬間を見ていた。愁はその光景に微笑んだ。愁には美月の行動が予想できた。すぐ手紙を取りに玄関に出ることぐらい分かっていた。だからポストに入れず、また愁もその様子を見たいから、自転車を乗っていくのを止め、押して歩いた。あとは美月が愁の名を呼ぶかどうかの期待感でゆっくりと歩くだけだった。
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