二度目の恋
「そのマットを離せ!」直也が追いつき、また手を差し伸べた。美月は顔を横に振り、その場に立った。「その、マットを寄こせ!」美月は動かなかった。ジッと直也を睨み、立っていた。「いい子だ。動くなよ。マットをパパに寄越すんだ。これは、パパの大事な物だ。芸術だ」美月に近づいた。「いい子だ。パパの言うことを聞くんだ。動くな。変な行動は取るなよ」美月に近づきそっとマットに触れて取ろうとしたが、引っ張っても美月がマットを離そうとしなかった。「美月、その手を離せ!」強引にマットを引っ張ったが美月は離そうとしなかった。それでも直也は引っ張り続け、突然美月は手を離した。直也は少し蹌踉け、その隙に美月は玄関を出ていった。そして直也もすぐさま美月を追って玄関を出た。「何処だ、出てこい。何処にいる」直也は家の周りを探し回ったが美月の姿はなかった。「何処に逃げやがった」直也は辺りを見渡し、斑と人の気配を感じ取り、後ろを振り向いた。美月が立っている。直也の顔が綻び、美月に近づいた。「もう逃げるな。隠した物を出すんだ。さあ。おまえが持つ必要はない。パパに渡すんだ」美月は黙って、動きはしなかった。直也は美月の体を探り始めた。美月はそんな直也に顔を微笑みかけた。直也は美月の体を真剣に探ったが、銀のまあるくて平べったい缶は何処にもなかった。「何処に隠した」直也はそう問いかけたが、美月はただ笑って動きもしなかった。直也は怒り、美月の耳朶を掴んで家の中に連れて行った。
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