二度目の恋
 雨は激しく降り注いだ。静かだ。何もなかったようだ。雨の中を歩く足音が聞こえた。傘を持ち、静かにこの光景を見ている直也の後ろ姿があった。そして、雨の降り注ぐ土砂から這い出るように、立ち上がった亨の影があった。直也は土砂に近づいた。亨は体中泥に塗れ、フラフラとなって立ち上がった。息を切らした。辺りが見えないほど朦朧としながらも、助けを求めた。その亨が顔を上げたとき、目の前には直也はいた。直也は亨の顔を見て笑い、殴りつけた。亨は何が起こったかも考えられず、直也は亨の顔を何度も何度も殴りつけた。亨は抵抗できず、その場で地面に倒れ、直也は倒れた亨を立たせて何度も殴った。そして亨は倒れ、息はしていなかった。直也は亨の足を持って、引きずって歩いていった。


「証拠は何処にある。誰が、土砂が崩れることを予測できるんだ」直也と恵子は対峙している。「あなたは、私の夫を殺した。それは間違いないわ」恵子は表情一つ変えず、冷静な口調だった。直也は突然笑い出し、愁に近づいて言った。「俺は嫉妬深いんだ。おまえのパパは、俺の女とセックスした。おまえは、分かるな。悪いことをしたら、それなりの報復はあるんだ」愁は震えた。直也は笑い、また恵子に近づいて殴りかかった。顔を殴った。「おっと、顔はいけねぇな」腹を三発なぐり、恵子は床に落ちた。「やめて、ママ、ママ」愁は涙を流し、ゆっくりと立ち上がった。直也は床に落ちた恵子を蹴っていた。「シュウ?」美月は愁に気づいて見ると、愁は恵子が直也に殴りかかった棒を持って、直也に近づいていった。「やめて、愁」美月は言った。直也は愁の姿に気づかずに恵子を蹴り尽くしていた。愁の持っている棒が、天高く振るかざし、そして直也に落とした。直也はその瞬間フラフラと床に倒れ込み、気を失い駆けていた。それでも愁は止めず、棒を何度も直也の足に振り落とした。「やめて!愁、やめて」美月は叫んだ。「シュウ、シュウ」恵子も微かな意識の中、愁の名を呼んだ。愁はそれでも止めはしなかった。もう、誰も止められない勢いだ。誰がそうさせたのか分からない。愁は無意識の中、棒を振りかざしていた。直也は足を一生懸命押さえて痛み喚いていた。
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