二度目の恋
その時「やめろ!」と玄関のドアを叩き割るように開けて竹中が入った来た。「愁、落ち着け」竹中は愁の体を抱き、愁の行動を止めさせた。愁はまだ興奮していた。直也はもう動けないでいた。竹中は恵子に近づき、恵子は床に這い蹲りながら竹中を見て笑った。そして竹中は美月に近づいた。「もう大丈夫だ。美月ちゃん、安心して服を着なさい」優しい口調で言った。美月は笑顔となり、服を着た。その時、直也は微かな意識の中ゆっくりと床に這い蹲って、動かなくなった足を引きずって愁に近づいていった。愁も誰も気づきはしなかった。直也は愁の足元につくと、強引に愁の服を持って、体を床に転げさせて最後の力を振り絞って殴った。愁はそのまま倒れ込んで気を失なった。「キャー!」美月は叫ぶと竹中は直也に近づき、一発殴ると直也はそのまま気を失った。そして、愁に近づき抱いた。「シュウ!シュウ!」竹中の声が響き渡っていた。
<あれからどれぐらいたったろうか。僕はどのくらい気を失ってた?>愁が気づくと、静江が愁を抱えていた。ガン太も芳井も唯もいた。みんな、玄関へ向かって立っていた。二人の警官が家の中に飛び込んできて、倒れている直也の両腕を掴んで、動かなくなった足を引きずりながら連れて行った。
<奴は、もう目覚めていた。足を床に擦りながら、両腕を抱えられ、抵抗するわけでもなく、玄関に向かった。だが、僕は見ていた。奴が玄関を出る瞬間、ゆっくりと振り向いて、僕に笑いかけたこと。そして、その顔に気づいた人がもう一人いた>愁は見上げた。みんな玄関に向かって立ち並んでいる。愁を静江が抱きかかえている。その隣に玄関に向かって立っている、恵子の姿があった。直也は警官に連行され、振り向いて愁に笑いかけた。恵子だけが直也のその姿に気づき、その顔は恵子の記憶の中に留まった。そして、玄関の扉は静かに閉じた。


 山に落ちる太陽が、村を赤く染めた。カラスの鳴き声が聞こえる。<どこからか女の人がやってきて、手を繋ぎ美月と歩いていった。美月は施設に入るらしい>恵子と愁は手を繋ぎ、美月を見送った。「美月!美月!」愁は叫んで手を振った。美月は振り返り、優しく愁に笑みを浮かべてまた、山に向かって歩いていった。美月の姿は影となり、沈む太陽を追って歩いていた。愁は、美月の姿が消えても、暫くその場から離れることはなかった。
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