二度目の恋
「違う!彼女は自殺だ。おまえは何もしていない。何も悪くないんだ」
「でも、美月を追い込んだのは私です。私が殺したのも同然だ」
「そんなに自分を、追い込むな!」
「じゃあ、何故美月は死んだんですか?」
 私も、高山さんも黙った。村の風景は見違えるほど変わっていた。田園という田園はもうなく、住宅や、いろんなお店が建ち並び、なかにはビルも建っていた。昔のような静けさはなく、賑やかな村となった。今日はクリスマスというイベントで、村は様々な飾り物や、サンタクロースの服装をした人が出歩き、賑わっていた。ただ、ゆったりとした薄い霧だけは変わらず流れていた。
 暫く歩くと私の家があった。周りは変わっても、この家だけは三十年前と同じだ。私は三十年この村に帰っていない。家を見上げた。そして私はゆっくりと玄関へ近づき、扉を開ける。湿った臭い。埃は舞う。暗く、とても静かだった。
「ここが、お前の家か?」
 私の後ろに立ち、高山さんは言う。
「ええ……」
 私は辺りを見渡した。何も変わりはない。テーブルの位置も、タンスの位置も変わりはなかった。私はその暗く、埃がかった部屋を見渡していると、目の前に、あの頃の記憶が蘇ってくる。埃もなく、部屋も明るかったあの頃。私はテーブルに座って読書をしている。
「シュウ!」
 声が聞こえたが、幼い愁は読書に夢中になっている。
「シュウ!」
 台所から声が聞こえ、顔を上げた。
「何?」
 答えると、台所から声が聞こえてくる。
「テーブルの上、片して!」
 だが台所からの声は、油が跳ねる音で消えていった。
「え?」
 大きな声で聞き返した。
「もうそろそろ料理が出来るから、テーブルの上を片して!」
 恵子はフライパンの上の物を炒めながら、大声で愁に叫んだ。
「たちばな!」
 恵子の顔は、凛々しかった。
「橘!」
 声が聞こえる。私は気づくと暗く、埃がかった部屋の真ん中で顔を上げて、テーブルをジッと見ていた。
「どうした?」
 後ろから高山さんが近づいてきた。
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