二度目の恋
そこも何も変わっていない、昔のままだ。タンスの引き出しを開けた。そのタンスの一番上の小さな引き出しを開けると、そこに刃渡りが十センチほどのナイフがあった。そのナイフを手に持って、タンスの上に立てられてる鏡を自分の顔に向けて髭をそり始めた。
 階段を上る音がしてきた。その音は部屋に近づいてきた。
「何してる?」
 高山さんが扉に寄りかかって立っていた。
「美月に会うのに、綺麗にしたくて」
「そうか……電気を付けないと暗いぞ」
 高山さんは電気のスイッチを入れると、部屋は明るくなった。
「チケットは取ったのか?」
「いえ、まだ……」
「ちょうど良かった。これは、俺のクリスマスプレゼントだ」
 高山さんは、封筒を差し出した。私は髭を剃るのを止め、その封筒を受け取って中を開けた。
「これは……」
 それは、ハワイ行きのチケットが一枚入っていた。
「今の時期、チケットは取れない。知り合いに頼んで取ったんだ」
「ありがとうございます」
 高山さんはにこやかに笑った。
「髭をそり終わったら、そろそろ行くぞ」
「ええ」
「俺は下で待っている」
 そう言うと、部屋を後にして階段を降りていった。私は鏡に向かい、ジッと自分を見た。そしてジーンズのポケットを探り、一枚の紙切れを出す。それは、ハワイ行きのチケット。私はそのチケットをジッと眺め、クチャクチャに丸めてゴミ箱に捨てた。そしてまた鏡に向き、髭を剃り始めた。
私は髭をそり終わると、タンスに入っている服で顔を拭き、ナイフを拭いた。そして、そのナイフを革のジャンパーの内ポケットに仕舞って部屋を出た。
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