二度目の恋
二人は家の扉を開けて外に出た。辺りはもう暗かった。村は白く染まっていた。二人は駅への道を真っ直ぐ歩いていた。何も話さず、私は流れるように歩いた。
 駅の前に着いて、二人は止まった。
「俺はここで……もう少しおまえの村を見たい」
 高山さんは言った。
「そうですか、では、ここで。色々、有り難うございました」
「ああ、気をつけろよ。また、連絡する」
私は深くお辞儀をすると、改札に向かって歩き出した。高山さんは、ずっと私の後ろ姿を見送った。私が改札を入ると、駅に背を向けて歩き出した。
 暫く歩くと、高山さんは止まって駅に振り向いた。私の後ろ姿。振り返らずに改札を通った姿が気になって振り返ったが、もう私の姿も見えず、また駅に背を向けて歩いていった。


 高山は暗く湿るような廊下を、音を響かせながら歩いていた。そして一つの部屋の前で止まった。高山が上を見上げると『集中治療室』と書かれている。その扉を開けた。部屋の中は、青がかった光が充満している。ベッドがあった。何やら音が響き渡っている。高山はベッドの横の心拍モニターを見ると波形がなく、警告音が鳴り響いていた。急いでベッドに近づいて、布団を捲くし上げた。すると震え、後退りをして急いでその部屋を出ていった。
 ゆっくりゆっくり時は過ぎていった。その姿に誰も気づいていなかった。心拍モニターの波形は消え、警告音が鳴り響く。ベッドには『松永健太郎様』と書かれていた。布団は捲くし上げられ、酸素吸入マスクは外されて、そこに、男が上目遣いで口を開けて死んでいた。
 まだ、心拍モニターの警告音は鳴り響いていた。
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