二度目の恋
「ええ」
「徹夜か。後ろ髪に寝癖がある」
「ええ、まあ。昨日、結局明け方までやって、服のまま寝ちゃいました。だからこの服昨日と同じで……」
「書けたか」
「ええ、何とか。ただ最後の言葉に悩んで、そこがまだなんです」
「そうか」
 愁は茶封筒を持って、中の原稿を取り出そうとした。
「ああ、ちょっと待て」
 高山は愁の動きを止めた。
「実は、まだ、一人来る」
「え?」
「新人だ。おまえに紹介したい。だが彼奴、寝坊しやがって、もうそろそろ来ると思うんだが……」
 その時チャランと大きな音がした。それと同時にドスンと大きな音もした。
「イッテ!」
 愁と高山は入り口を見た。すると背の高い男が倒れていた。その男はすぐに立ち上がり、高山に向かって歩いてきた。
「すんません。寝坊しました」
「俺はいいんだ。ほら、謝れ」
 高山は男を、愁の方に向けた。
「橘さん、遅れてどうもすんませんでした」
「バカ!先生と呼べ」
「あ、すんません。橘先生、遅れてどうもすんませんでした」
「いや、僕は別に。先生なんて呼ばれる身分でもないし。それに僕も遅刻してきたから」
 愁は言った。
「えっ、そうなんですか?」
「そうなんですかじゃねぇよ。早く自己紹介しろ。橘、此奴、新人の松永だ」
「はい、松永、松永健太郎といいます。宜しくお願いします」
「へ~、年は?」
 愁が聞いた。
「はい、十二月の十七日で二十五になります」
「へ~、じゃあ僕と五つ違うんだ。僕はね、十二月の二十三日、天皇誕生日に三十になるんだ」
「そうなんですか。誕生日も近いですね」
 愁は松永を見上げた。
「背、高いね」
「ええ、昔、バスケをやってました」
「そうか……」
 松永健太郎は二枚目だった。髪は黒髪だ。
「今日からおまえの担当だ」
「えっ?」
「はい、宜しくお願いします」
 松永健太郎が言った。
「担当?」
「ああ、おまえもちゃんとした担当が出来てもいい頃だ。もう原稿を持ってこなくていいぞ。今度から此奴が家に取りに行く」
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