二度目の恋
「編集長が橘先生、とても優しい方だって」
 松永が言うと、愁は
「編集長って?」
 聞き返した。すると松永は、高山を指した。
「俺は、編集長になった」
「あ、おめでとうございます」
「ありがとう。編集長になって現場には出なくなるが、俺はいつでも橘の担当だと思っている。おまえの原稿に目を光らして読むから覚悟しておけ」
「はい、分かりました。覚悟しておきます」
「何かあったら、すぐ俺の所に連絡してこい。相談に乗るから」
「分かりました」
 愁は松永を見ると、松永はずっと立っていた。
「松永君、座ったら」
「あ、すんません」
 松永は座った。そこにマスターがコーヒーを持ってきた。何も言わずにコーヒーを愁の前に置くと、歩いて行ってしまった。
「松永君、何か飲む?」
 愁が言った。
「いえ、大丈夫です。僕は水で……」
 目の前にある水を飲んだ。
「ばか!それは橘のだ」
 横にいた高山が、思わず松永の頭を叩いた。愁はその光景に吹き出して笑った。
「す、すんません」
「いいよ。ほら、僕にはコーヒーがあるから」
 愁はコーヒーカップを持ち上げて一口飲んだ。
「おいしい。高山さん、ほんと、ここのコーヒー美味しいです」
「ダロッ!ここは旨いんだ。何故流行らないのかわからん」
 松永は目の前にある茶封筒を手に取った。
「原稿だよ。まだ最後が出来ていないけど」
 愁が言った。
「へ~、これが原稿ですか」
 松永は茶封筒から原稿を出し、捲った。
「まあ、今日集まったのは松永の紹介だ。原稿取りが目的じゃない。おまえ、明日なら最後出来てるな」
「はい」
「じゃあ松永、明日橘の所へ取りに行け」
「はい」
 三人は目の前にある飲み物を飲んだ。
< 157 / 187 >

この作品をシェア

pagetop