二度目の恋
霧は木々の狭間を流れていた。橘恵子はその中を掻き分けるように彷徨い走っていた。額に汗を浮かべて、何かに追われるように焦っていた。
 途中、赤いリボンがあった。橘恵子は、その赤いリボンが結ばれている、樹木の横の草むらに体を埋めた。そして、草を掻き分け掻き分けて、後ろを振り返り、何かに脅えて走った。すると、草は途切れ、恵子は飛び出した。そこは、あの、湖だった。恵子は、まだそこが何処なのか理解できなかった。朦朧(もうろう)と湖を見ていると、背後から草を掻き分ける音がしてきた。恵子は咄嗟に後ろを振り向き、その恐怖から後退って思わず尻餅をついてしまった。‶ザクザク″と草を掻き分ける音は近づいてくる。恵子はもう動けなかった。その、恐怖から逃れられない。体は震え、瞬きするのも怖く、体中汗を掻いていた。その、最後の草が掻き分けられ、その物が姿を現そうとした。恵子の目は力一杯見開いた。
 ガバッっと起きあがった。額には汗を浮かべている。橘恵子の姿だった。ベットの上だ。<また夢……>ずっと、あれからこの夢が彷徨っている。橘恵子はもう、別人だった。皺を顔中に寄せ、頭は真っ白く白髪で染まっていた。その夢に恐怖を覚えていた。<いつか来る>そんな気がしていた。
< 158 / 187 >

この作品をシェア

pagetop