二度目の恋
「凄いじゃない!今小説家なんだ」
「そう!小説家」
「どんなの書くの?」
「恋愛小説」
「じゃあ恋愛豊富なんだ」
「ううん、恋愛はしたこと無いんだ」
 愁は少し悲しい顔をした。そんな顔をするつもりはなかった。だが、寂しさが胸に突き刺さったんだ。
「神霧村には帰ってるの?」
 美月が聞いた。
「昨日、帰った。鉄道が走ったんだ」
「鉄道?」
「うん、汽車だ」
「汽車なんだ」
「ああ、観光目的だよ」
「へ~、そうなんだ」
 美月は目の前にあるグラスに注いだ赤ワインを飲んだ。<何やってんだ。会話が、ドギマギしている>愁はそう思っていた。あの事件以来の再会だ。こんなところで気分を害したくはなかった。だが、複雑な心境でもあった。忘れていた記憶が、あの記憶が、体の底から過ぎっていくんだ。
「また、会えるかな」
 愁が言うと、美月は大きく頷いた。その顔を愁は確認すると、大きく息を吐き出して微笑んだ。落ち着いた表情だった。そして二人は目の前のワインを飲んだ。


 愁は狭い部屋の中を、落ちつかない様子で歩き回っていた。そこに、部屋のチャイムが鳴った。ピンポ~ンその音を聞くと直ぐさま玄関に直撃した。そして玄関を勢いよく開けた。そこに、健太郎が立っていた。
「遅い!遅い遅い遅い!!!」
愁が興奮して言った。
「遅いって……こんな夜遅く、突然呼び出して来いって言われたって、そう簡単に来れないって」
 健太郎は取りあえず部屋に上がった。
「いいか……聞いてくれ」
 愁は気持ちを落ち着かせる為、唾を飲んだ。
「会ったんだ……」
「会った?誰に?」
 健太郎は言って取りあえず座り、愁は落ちずかずに立ちながら説明していた。
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