二度目の恋
「初恋の人」
「初恋?」
「ああ、変わってなかったなぁ。青い目をしてるんだ」
「青い目?外人?」
「アメリカ人とのハーフなんだ。体中細くて凄い綺麗だった。感動した」
「いつの時の恋なの?」
「僕が十二の時だ。僕はこの時しか恋をしたことがないんだ。今まで、本気で人を好きになった事って、一度だけなんだ」
「マジ?」
 健太郎は顔を引きつっていった。
「マジ」
 愁は健太郎の顔に近づいて言った。
「何て言うのかなぁ。落ち着かない。心臓が破裂するようにドキドキするよ。彼女の名前は美月って言うんだ。いい名だろ。美しい月って書くんだ。彼女、結婚したんだ。幸せなんだなぁ。また会ってくれるって」
「愁が幸せだよ」
 健太郎は呆れ顔で言った。
「何で?」
「結婚してんだろ。何でそんなにドキドキするんだ?」
「だって久しぶりの再会だよ」
「恋に落ちるだろ」
「落ちないよ。彼女に恋はしないよ。それぐらい、僕にも分かるよ」
「絶対だな」
「うん、絶対」
 愁は確信に満ちた表情で答えた。
「結婚している女と、恋に落ちるのは危険だ」
 健太郎は独り言に、興奮している愁を見ながら落ち着いて言った。


 ドアノブが回り、ドアは開かれた。すると、美月が家の中に入ってきた。「ただいま」小声で言った。家の中は暗い。少し疲れた表情だった。
 靴を脱ぎ、家に上がり、靴を正しい方向へ揃える為にしゃがんだ。靴の方向を変え揃えた。何か音がする。何かの声が聞こえた。美月はその声のする方へ敏感に振り返り、目を向けた。そこは、長い廊下。その奥から聞こえる。男の荒い息使いと女の喚き声。美月は長い廊下を歩いた。その声は徐々にハッキリと聞こえてくる。すると美月は立ち止まった。廊下の途中に部屋があり、その部屋から声は聞こえる。その部屋の扉は、少しだけ開いていて、部屋の中を覗けた。美月はその隙間から中を覗いた。
 部屋は暗い。ダブルベッドが部屋の奥にある。ベッド脇のランプは点いていた。ベッドだけがその横のランプでほんのりと照らされていた。そこに、裸の男と女が激しく抱き合い、喘ぎ声を出していた。
 美月はただ、表情も変えることなく、その光景を扉の隙間から覗いていた。
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