二度目の恋
物置小屋に駆け寄ると、飛び散った手紙と破損した自転車のタイヤがクルクルと回っていた。そして人影が見えた。愁はその人影に近付き、その顔を覗き込んだ。ガン太だ。仰向けに、目を真ん丸く倒れている。「ガンちゃん!」叫んだ。「おう!愁か。……おはよう」ガン太は言った。「……おはよう」愁は、ガン太の顔を覗き込んで答えた。ガン太が見た空は、青かった。雲が緩やかに流れていた。「今日は、いい天気だ……」ガン太は上半身起こし、散らばった手紙から、一通の手紙を探して手に取り、愁に差し出した。「はい、手紙」ガン太は言った。「手紙?」愁は首を傾げた。「ああ、今日から郵便配達人だ」そのガン太の言葉に、愁は少し微笑み「仕事、決まったんだ」言った。「郵便配達も危険だな……」ガン太は立ち上がり、服に付いた砂埃を振り払って、自転車を起こした。「あ~あ、タイヤ曲がってんな。初日から散々だ」手紙をかき集め、鞄に入れてガン太は自転車を跨いだ「恵子さんは?」ガン太が聞いた。「ママ?仕事」愁は答えた。「そうか、日曜日なのに大変だ」恵子は仕事に出ていた。亨が亡くなり、生活源がなくなって、毎日仕事に明け暮れていた。ガン太はそれを知っていた。だから愁にそれ以上は問わなかった。「じゃあな」ガン太はまだ配達が残っている。「うん、頑張ってね」愁は笑顔で言った。その愁を見、ガン太は自転車を漕ぎ始めた。自転車はガタゴトガタゴト音を立て、漕ぎ難しそうに進んでいった。その姿を愁は、ずっと見ていた。
「ガンちゃ~ん!」
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