二度目の恋

第五章

山道を駆ける自転車がある。素早く動くペダル。その自転車の後ろには、手紙やら封筒やらがいっぱい入った鞄がある。鞄から溢れそうな手紙、今にも落ちそうだ。自転車はフル回転、漕いでいるのはガン太だった。妙に新しい、まだおろし立てと思える制服らしき服を着ていた。山を駆け下りている。「ヒャッホー!」と大声で叫び「ほらほらほらほら!ガン太様のお通りだ!皆の者、退け!」人気のない山道で、そんなことを叫びながら、もの凄いスピードで山を駆け下りていた。
 暫くして、自転車のブレーキをかけた。が、自転車は止まるどころか、前にも増してスピードが上がっていった。一度、もう二度、ブレーキをかけたが止まらない。終いにガン太は、ブレーキと共にハンドルをギュッと握った。「ブレーキが、効かない……」青ざめた顔をして「ワァー!」と、騒いで降りていった。
 亨の死から一ヶ月過ぎた、六月の中頃の事だ。木の影が、ガン太の顔を駆け抜けた。「誰か、誰か助けて……」腰を抜かしたような顔をして「誰か……誰か……神様……どうか、僕をお助け下さい……」自転車のスピードは、ドンドン上がっていく。自転車はバランスが崩れてぐらつき始め、ガン太もハンドル操作をするのがやっとだ。それでも何とか道に沿って走っていたが、もう限界は来ていた。「誰か!止めて!」叫び、山に木霊した。そのままのスピードで山を下り、薔薇畑を通過し、そのまま愁の家にある物置小屋に突っ込んでいった。‶ガッシャーン″と、もの凄い音と共に、自転車は止まった。
 その時、愁は一人で食事していた。そのもの凄い音に驚き、慌てて窓の外を覗いた。すると、物置小屋に激突して破損した自転車と、倒れている人影が見えた。愁は、慌てて外に出た。
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