二度目の恋
 男はソファに腰を下ろし、バーボンを飲んでいた。男は三十代半ばで、なかなかのハンサムな顔をしている。背も高く、足も長くてお尻も引き締まっていた。顔は小さく短髪で、不精髭を生やしている。年を感じない風格をしていた。美月の父親である。
 コップに注いだバーボンも、底をついた。また倉岡直也はバーボンの蓋開け、コップに注いだ。不精髭を撫でるように触り、タバコに火を付けて一服した。直也の習慣であった。何かストレスや、不服があるときに決まってする習慣だ。
 夜十一時を過ぎていた。ドアをノックする音が聞こえる。直也は玄関を向いた。激しくノックする音が聞こえてくる。直也は立ち上がり、玄関へ向かった。足元はかなりふらつき、歩くのもやっとだ。
 玄関のドアを開けると、一人の女が立っていた。この女も足元がふらついている。雨に濡れ、体がビッショリと濡れていた。だが女はそんなこと構わず、ほろ酔い気分でかなり上機嫌に話しかけてきた。
「来ちゃった~何でこんな田舎に住むの~?」
「なにで来た」
 直也は表情を変えず、女を冷静に見ていった。
「あ~れ」
 女が後ろを指した。そこには泥が跳ねて汚れている、ジープがあった。
「ね~入れてよ~家んなか~雨が冷たいの~」
 直也はジッと立っていた。すると女は突然直也に抱きつき、キスをした。
「やっぱりあんたが一番。気持ちいいわ~あんたといると~」
 女は直也の目を見、直也は女を家に入れた。その時、美月は二階の部屋にいた。壁に寄り添って座っている。天井に窓がある。その窓にあたる雨が、影となって美月の体に降り注いだ。
 隣の部屋から、女の喘ぎ声が聞こえてきた。美月は咄嗟に耳を塞ぎ、体中が震えだした。その震えを止めようと、焦ってもいる。隣の部屋でセックスをしている。直也はいろんな女を連れてきては、抱き合っていた。だがそこに愛はなく、一晩だけが殆どだ。一晩終わったら、女は帰っていく。美月はその事を慣れていた。その現実を、頭で整理出来ていた。だが体が抵抗し、震えが起こった。喘ぎ声が聞こえなくなっても、その震えは一日中止まることはなかった。
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