二度目の恋

第六章

しっとりとした雨が、神霧村に降り注いだ。静かな日は続く。青い目の少女は、愁の家の隣に越してきたらしいが、まだ誰も姿は見ていなかった。愁が少女を見てから、もう四日も経つ。本当に、その家に住んでいるのかさえ分からないほど、静かだった。
 次の日の夕方、まだ雨は降り注いでいる。愁は傘を差して学校から帰る途中、薔薇山を下っている。辺りは静かで風もなく、ピチャピチャと愁の歩く音だけが聞こえた。雨の音しかしない山を歩き、薔薇畑を通って玄関へと向かいドアを開けようとすると、遠くに人影が見える。愁は振り向いた。隣の家の外に、その人影はある。愁はジッと見た。少女だ。あの、少女だ。
<何をしているんだろう……>愁は思った。少女は傘も差さず、玄関の外で雨に濡れて佇んでいる。愁は暫く立ち止まって『何故少女が、傘もささずに立っているのか?』を考えたが、結局思いつかず、首を傾げて家の中に入っていった。
 次の日、まだ雨は降っていた。リュウを散歩に連れていた。傘を差し、リュウは繋がれて、雨に打たれていたが、喜びはしゃいでいた。行く道行く道リュウに従った。雑草の生い茂った原っぱや田圃の瑞々しい香り、薔薇畑の薔薇の匂いを嗅ぎながら薔薇山に入っていった。
 山を登った。山には余り雨は入ってこなかった。<傘を閉じよう>愁は思い、傘を閉じた。木の葉から垂れた雫が、愁の首下に落ちた。<冷たい!>愁は首下に手をあて、上を見上げた。すると、次々と木の葉から雫が落ちてきた。愁は何故か、とてもいい気持ちになった。閉じた傘を振り回した。その振り回した傘が木の葉にあたり、そこからまた雫が落ちてリュウの体にあたり、身震いした。リュウもはしゃぎ周り、愁は傘を振り回し歩いて、湖の入口に着いた。
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