二度目の恋

第九章

 「ようこそ!古希邸へ。これから倉岡美月ちゃんの、歓迎会を開きたいと思います。司会はわたくし、古希、ガン太が務めさせて頂きます」ガン太が一人立ち上がっていて、慣れた感じに軽快な口調で話していた。そこに愁と美月、竹中、芳井、唯、恵子に愁の愛犬リュウがいた。「お~い静江!まだか~もう始まってるぞ!」とガン太が大声で叫ぶと「ちょっと待って!すぐ行くよ!」と静江の、叫び声が返ってきた。その声の直後に部屋の扉が開き、静江が顔を出した。「お待たせいたしました」上品に、お淑やかな口調だった。静江はお盆に、みんなの飲み物を乗せて入ってきた。浴衣姿だ。「ウォー」みんな、静江の浴衣姿に歓声をあげた。「静江ちゃん、きれ~」まず、褒めたのは恵子だった。「ありがとう。私が作ったのよ。明日、神社でお祭りがあるでしょ、それに着ていく浴衣。明日着る前にちょっとみんなの前で、お披露目しようかと思って」静江は上機嫌に言うと「うん、とても綺麗」唯が言い、更に喜び笑った。「バカお前、今日は誰が主役だと思ってるんだ!」ガン太が呆れて言い「ごめんなさ~い。さ、続けて続けて」静江はみんなに飲み物を配って、席についた。「さぁ、気を取り直して、いきますよ。まず美月ちゃん、一言!」ガン太は言った。美月は少し戸惑った。少し恥ずかしかった。こんな事は、初めてだ。こんなに人に歓迎してもらうのは初めてで、ちょっと照れ臭くて立ち上がれないでいた。その姿を見て、愁は美月をつついて後押しし、美月は戸惑いながらも、立ち上がった。「あ、あの~」言葉が詰まった。「美月ちゃん、頑張って!」恵子は応援した。美月は顔を引きつりながら笑い、愁を見ると、愁はジッと美月を見、頷いた。そして美月はそっと胸に手をあてて、気持ちを落ち着かせて静かに話し始めた。「あの~倉岡、美月です。あの、こ、こんなに、いっぱいの、人の前で、話すの初めてで……あ、あの~」美月の言葉に、先はなかった。そのとき「美月ちゃん、お座り!」静江は叫び、美月は訳分からず、その声に驚いて咄嗟にその場に座った。「おいお前、まだ自己紹介終わってないじゃないか!」ガン太が言った。「美月ちゃんが、可哀想じゃないかい!あんなに緊張して!」静江はガン太を怒鳴りあげた。「じゃ、じゃあ、みんなが美月ちゃんに、質問していきましょ。ねっ」ガン太と静江の喧嘩はいつもだ。
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