二度目の恋
 愁はそう叫ぶと、右手に持って入る綿菓子を一口ガブリつき、左手に持っている綿菓子を美月に差し出した。だが美月は綿菓子に見向きもせず、自分が振り返った方向をずっと見ていた。
「どうした?」
 愁は言った。
「ん?ありがとう」
 美月は綿菓子を受け取った。
「何か、ここの神社おかしくない?」
「え?」
「だって……何か……こう……建物って言うか……何か……」
「お社がない?」
「そう!」
 美月は叫んだ。
「この村には言い伝えがあるんだ」
 二人は歩き始めた。
「言い伝え?」
「うん。神霧村っていつも霧が多いでしょ」
「うん」
 二人は人の気配がない静かな神社の裏の道を歩き、その道の奥にある杉の木下で立ち止まって、綿菓子を食べながら話した。
「でも、昔は霧一つ無かったんだって。とにかく村全体が、透き通って見えるような輝いて見えるようなそんな村だったんだって。でもね、ある寒い日に、天界にいる一人の天使が息を吐くと白い煙のようなものが出て、天使はそれが面白くて何度も何度も息を吐き出したの。そしたらそれが一度浮き上がり、その後下界に沈んじゃったんだ。天使が下界を覗くとそこに村や畑が無かったんだ」
「消えちゃったの?」
 美月を聞いた。
「ううん、隠れたんだ。その天使が吐いた白い物に因って。それを知った神様がものすごく怒って、天使を捕まえて罰を与えようとしたの。それで天使は逃げたんだって、白く埋まった下界に……ここなら見つからないと思ったんだ。だけど神様はすぐ見つけたの」
「どうやって?」
「どうやってだと思う?」
「分からない、どうやって?」
「天使は太陽の光を辿って逃げたの。白く埋まった村に太陽の光が降り立つと、まるで道のようにいくつもの線になって辺りを映し出すの。神様はその線を辿ると、そこに白く輝いた天使の姿があったんだ。神様は罰としてその天使にこの村の平和を見守るよう言い渡し、お社に閉じ込めたんだ。それからずっとこの村は霧に埋もれた村となった」
 美月は聞き入っていた。
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