二度目の恋
 静江が先頭に、愁と美月は後について山の斜面を歩いていた。薔薇山の頂上に上がっていくと、軽妙な音楽が聞こえてきた。
 鳥居を潜ると、沢山の屋台が並んでいる。綿飴、あんず飴、お面、金魚すくい、とにかく沢山だ。屋台の裏に行くと、茣蓙(ござ)を敷いて、民謡を歌っている者もいる。「すごい……」最初に言葉を放ったのは、美月だった。笑顔で驚きに満ちていた。「ね、凄いでしょ」愁は満足していた。美月の笑顔が見られることに、最高の幸せを感じた。「美月、走ろう!」愁は言い、美月の手を取って、しっかりと握り走り出した。
「ずーと、ずーと、まだまだずーと、屋台が続くんだ!」
「凄い!凄い!凄い!こんなの初めて!」
 美月は、息切れしながら言った。そして美月と愁は、一番先頭の屋台まで来て止まった。すると遅れをとって、ものすごい形相で静江が走って来た。
「ちょ、ちょっと二人とも危ないから走らないで、ゆ、ゆっくりと行きなさい」
 静江は息切れして言葉を吐き出すのが精一杯で中腰になって地面を向いて話した。
「はーい」
 二人は元気よく返事をした。
「ほら二人とも、今日はおばさんの奢り。何でも買いなさい」
 静江は五百円札を差し出し、愁はそれを受け取った。
「やった!おばさんありがとう」
 愁が言った。
「ありがとうございます」
 美月が言った。
「美月、綿菓子食べよう」
 愁はそう言い、美月の手を思いっきり引っ張って走った。美月は愁に引っ張られながら、ふと後ろを振り向いた。<何か変だ>美月は思った。この神社には何かが足りない。
「おじさん、綿菓子二つ」
 愁は綿菓子屋の前で立ち止まった。
「あいよ!」
 屋台のおやじが喚いた。するとおやじは機械に粗目を入れ、割り箸を一本右手に、もう一本を左手に持ち、出て来た綿を巻き始めた。
 おやじは一本でかい綿を作るともう一本作り始め、そのもう一本も完成すると
「あいよ!」
 という叫びで愁に渡した。
「ワァーでっかーい。はい、美月」
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