二度目の恋
「でも、お社が無いんだ。昔の人はこの村のどこかに絶対お社があるって、信じてを建てなかったんだって。でもこんな小さい村、お社があったらすぐ分かるのにね」
 美月は黙っていた。母親との記憶が微かに蘇った。美月の母親が雨の中、懸命に走っている姿。雨に濡れ、それはとても悲しい顔をしていた。
 遠くから静江が走って来た。
「いたいた。もう、捜したわよ。そろそろ返ろうかしら」
「え~、もお?」
 愁が言った。
「ほら、恵子ちゃんも心配するわよ。美月ちゃんもお父さんが待ってるから帰りましょうね」
 美月は頷き、二人は立ち上がった。
「美月、面白かった?」
 愁が笑顔で聞いた。
「うん!」
 美月は大きく頷いた。三人は、まだ明るく賑やかな神社を後にして、山を下って行った。


 美月は、幸せにベッドで寝ていた。夢を見ていた。愁と美月が手をつなぎ、楽しく走り回っていた。あの、湖で、花や草に囲まれて、最高に幸せだった。
 外は雨が降って来た。美月の家も雨の音が聞こえてくる。その雨の音に混じってミシミシと階段を上る音がする。静かに階段を上り、美月の部屋の前で立ち止まった。ドアノブを握り締め、静かに回転させた。‶カチャ″その音でドアは開いた。そこに、直也は立っている。美月は安らかに寝ていた。天井の窓に雨が降り落ちる影が美月の顔にうつり、廊下から漏れる光が美月の顔にあたった。直也は美月を見ていた。無表情に───────
 雨の中、美月の母親は懸命に走っていた。悲しい顔で───────
<次は、おまえだ>
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