二度目の恋

第十二章

「リュウ!」愁は名を呼びながら勝手口を出てきた。いい天気だ。手にはリュウの食事を入れ物に入れて持っていた。昨日の雨が嘘のようだ。そこに小屋がある。愁は見つめ、少し足を進めた。まだ屋根から雨滴(うてき)が垂れている。<美月……>美月は大丈夫だろうか。昨日の出来事がなんであったのか、愁にはまだわからないでいた。
 「リュウ」愁は振り返り、物置小屋からリュウの小屋へ向かった。「リュウ?」愁がリュウの小屋の方を見るとそこにはリュウはいなく、鎖だけが小屋から繋がって、その先に外された首輪だけが地面に置かれていた。「リュウ……リュウ?」辺りを見渡した。それでもリュウの姿はなく、家の周りを歩いた。「リュウ?リュウ!」何度も名を呼んだ。だがリュウは現れる気配もなかった。
 愁は一度家の中に入り、恵子に聞くことにし、勝手口の扉を開けた。「ママ、ママ!」叫んだ。「なに?」恵子の声が奥の方から聞こえた。「リュウがいない!」愁がそう言うと、恵子は奥から勝手口に向かってきた。「あら、何処行ったのかしら。その辺でまたチョロチョロしてるんじゃないかしら。よく探しなさい」そんなに慌てることはなかった。何故ならリュウはよく鎖を外して自由だと言うこと。辺りをよく嗅ぎ回ってもいるということだが、ただ愁が心配だったのは、家の周りに見当たらないこと。呼んでも姿を現さないこと。首輪が外されていることだった。自由でいても家から離れることはなく、呼んで姿を現さないこともなかった。「リュウ!リュウ!」その名を呼び続けた。
 物置小屋のドアを開けた。中に光が射し込んだ。湿った匂いがする。ガラクタを退け、隅まで探したが、リュウの姿は無かった。愁は物置小屋を出て薔薇畑に行ってリュウを探したが、ここにも姿は見当たらなかった。そして愁は美月の家へと向かった。
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