二度目の恋
「う、うん」
 愁は心配で、ドアを見ていた。恵子は家中の電気を消し、二階に足を運んだ。愁は暗くなった部屋に佇み考え∧美月が危ない!∨そう直感した。
 直也は傘を綴じた。小屋の前まで行くと愁の愛犬リュウが直也の存在に気づき、襲いかかるように吠え始めた。その吠え方は異常なほど、恐怖心と敵意に満ちていた。直也はリュウに近づくとジッと見て思いっきり蹴り飛ばし、リュウは泣き声とともにその場に倒れてしまった。すると直也はまたドアに近づきゆっくりと開けた。錆びれた音がした。暗闇だった小屋もドアが開かれると、徐々に光が入り込むように感じた。それでも暗闇と変わらない小屋を、道しるべを辿るように歩いて行くと遠くに動く影がある。美月だ。直也が近づく影に脅えていた。
「おいで。いい子だ。パパと一緒に帰ろう」
 物陰から美月の顔が浮かび上がった。するとそっと直也は美月に手を差し伸べ、美月は立ち上がろうとしていた。
 愁は飛び出した。玄関のドアを撥ね退け、雨を突っ走り、小屋の前に着いた。リュウが倒れている。<リュウ……>近づき抱きかかえた。<誰が……>リュウは寂しい目で愁を見ると、ゆっくりと蹌踉けながら立ち上がった。愁はリュウの無事を確かめると、リュウから離れてまた小屋を見た。恐る恐る雨に打たれながら、小屋に近づいていった。
 ドア前に差し掛かると、息を飲み込み、ドアに手をやり、頭から滴が、その手にポタポタと落ちた。静かにドアを開けた。
 錆びれた音がした。小屋の中に光が漏れたように感じた。静かだった。愁は小屋の中に入り込んだ。ゆっくりと足下を確認しながら、恐怖に脅えながら歩いて天窓の下に辿り着くと、そこにはもう美月の姿は無かった。
「美月……」
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