僕のとなりは君のために
再び君を背負うと、僕は足を止めた。

ここから一番近い交番は、二キロ先にある。

ここは住宅地だから、交番は存在せず、一番近くても隣町に行かないとないのだ。

溜め息をつき、また君をベンチに下ろした。

君はケータイすら持っていないのだから、誰かを呼ぶにも、それができない。

結論!
このままほっとくか。

「よし、行こう!」

よく考えてみれば、僕は君とはなんの関係もない間柄なのだ。

電車の中で成り行きで君を助けなければならない状況になったとしても、今この場で君を助けなければならない理由なんてどこにもないではないか。

そうだ。ほっとくのが賢明だ。パンチを食らうのが怖いし。

僕は歩き出した。後ろめたさはないわけではないが、これ以上のことは僕の手に余るのも事実だ。
後ろから、“ドサッ”と重い音が聞こえて、僕は反射的に振り返った。

君がベンチから転び落ちていたのだ。

「見てない、見てない……」

目を閉じ、見なかったふりをして、前へ進む。

けれど二歩もしないうちに、また足が止まった。
「はぁ……」
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