もう春は来ない


「アイツ…あんな小さな弟いたんだっけ?」

「さあ……知らねえ」

 
――ネエチャン、もいっかい!ゆっくり投げてよ、ボクが捕れるように!

――あはは、下手くそすぎ!じゃあ次は下から投げるからね!


 キミはそう言って笑うと、ゆっくりと、小さなゴムのボールを少年に向かって放り投げる。
 
 すると、そのボールは、少年の手のひらにすーっと吸い込まれていった。


――わあ!捕れた!ネエチャン見て!

――やった、うまいじゃん!じゃあ今度は姉ちゃんに投げてごらん!ここに向かって投げるんだよ!


 僕らは、なぜかそこから立ち去れなくて。

 気がつくと僕らは、どちらからともなく口にしていた。







「アイツ笑うんだな…」





 ホントにそう思ったから。

 僕らは、ただそう思ったから。

 キミの顔を、まじに見るのは初めてだったから。


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