女王の密戯
「でもそれって、危なくないですか?」

由依が不安そうな瞳で茶田の顔を覗いてきた。

「危ないって?」

「犯人を仮定して動く、てことです。真犯人を見逃す可能性もありますし」

それは由依の言う通りだ。
今の話でいくと、米澤紅華が犯人という線でしか事件を捜査しないということになる。それは他にいるかもしれない犯人を見逃すということだ。

「確かに、愛宕の言う通りだ。でも、それは他の班がやる。他に犯人がいるなら、それは他の班が必ず見付けてくれる。なら俺達は、俺達のテリトリーで怪しい人物を徹底的に調べるべきだ。他に目を移して、そこにいるかもしれない犯人をみすみす逃すべきではない」

茶田は自分が身を置く組織を無意味だと感じながらも仲間を信じていた。そこに犯人がいるなら、必ず辿り着いてくれる、と。
それは矛盾でも何でもない。そう信じたいのだ。
犯人が逮捕されないなんてことはあってはいけない。これだけの捜査員を投入しているのだから、それらは与えられたところを徹底的に調べるべきなのだ。

茶田の言いたいことを理解した由依はわかりました、と頷いた。ふんわりとした髪がそれに合わせて揺れる。

「それなら、精一杯力になれるよう頑張ります」

今はそういう話をしているわけではないのだが、と茶田は小さく苦笑いをした。



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