瞳の向こうへ
今後の方針を確認し、源先生はグラウンドに戻った。


気付けば日が落ち始め、外はカラスがやたらと行ったり来たり忙しい。


活気のある声が聞こえてくる。


活気のある金属音も。


ただ、彼の声は当然聞こえるはずもない。


職員室のドアを開けると、森口教頭とバッタリ。


「お疲れ様です」


「おお〜、川崎先生。ご苦労様です」


どう見ても急いでいる雰囲気満々だった。


「いや〜、今日は娘の誕生日でね。早く行かないとまた雷だよ」


「だったら私邪魔ですね。どきます」


「いいよいいよ。まだ時間はある。川崎先生もこれから何かと大変でしょう」


そう言いながら腕時計をちらほら見つめる。


「でも早く行ってあげないと。得点高くなりますよ」


「そうだね。それじゃお先に失礼するよ」


お互い会釈し、森口教頭は小走りで階段を下りていった。


意外にも教頭は自然体だ。


何か言われるのかと思ってたから拍子抜けだけど、これからだよ本番は。


荷物を整理し、職員室を後にする。


活気溢れる野球部の声を耳に受け止めながら。


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