瞳の向こうへ
「噂は聞いてたけど、いざ自分が体験するとわかる。病院食はアカンな」

いつも笑うときは人目もはばからずゲラゲラ笑いとおすおばさんが含み笑いだ。

「もう大丈夫なんですか?」

「そうならないと甲子園観に行かれない」

「ですよね」

覇気のないおばさんに少し遠慮気味になってしまう。

「そうそう!暇だから今勉強してんの。これこれ」

点滴をしてるせいか、動きがぎこちない中、机の引き出しから一冊の本を出した。

「……手話をマスター」

「そう!思いきって勉強」

病気になってしまったら人は変わるんだろうか?

習うこと。勉強することに無縁なはずのおばさんが、あろうことか……。

「ほら、親戚中探しても手話出来るのっていないじゃない。それじゃお母さんもかわいそうじゃない?あとは、みんなに自慢出来るのが気持ちいいし」

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