生前の君に捧ぐ、最初で最後の物語
「何かありましたか」
驚いて女に聞いて見れば、女は私の手を取ったまま答える。
「ふちが黒いですわね。絵を描く方ですか。それともお話を書く方ですか」
女がまるでそれを初めて見たかのように目を輝かせるから、
私も答えずにはいられなくなり、つい小説家を目指していることを話してしまった。
すると女は更に目を輝かせ、笑いながら言う。
「是非わらわに読ませて下さいませんか」
と。私はその期待に応じることは出来なかった。何故ならもう私は死ぬのだから。
幾ら書いたところで見える先は闇しかない。ならばこの橋から飛び降りよう。
「死ぬのですか。この橋から身を投げて」
私としたことが。心の中で呟いた言葉が音となって女の耳に届いてしまうなんて。
今更言葉を撤回することも出来ない。ならばそれを認めよう。
小さく頷くと、女は私の考えていた言動とは違う言動をしてみせた。