生前の君に捧ぐ、最初で最後の物語
「そうですか。じゃあ、死んでも良いですよ」

死ぬなと引き止める訳でも、泣く訳でも、怒りを見せる訳でもない。
ただ私が死に行く事を認めたのだ。

「ですがわらわに貴方の書くお話を読ませていただけませんか。
怖いお話は嫌ですが、それ以外でしたら大歓迎ですわ。死ぬのはそれからにして下さいませ」

私はただ嬉しくて涙した。初めてだったのだ。私の話を読みたいと言った人間は。
女の目はただ真っ直ぐでその目の最奥まで濁りは一点もない。偽りではないようだ。

「どうされたのですか。悲しいのですか」
「いいえ。嬉しいのです。貴女が初めてだったのです。私の話を読みたいと言ったのは」

涙を拭い、心配をかけさせまいと笑えば、女も何故か優しく笑った。
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