身勝手な恋情【完結】
なんてことはない。そうだ。平常心、平常心……。
ただでさえ社長との一夜の過ちのことがあるというのに、今さら現れた、別れた男のことなんか考えるのはよそう。
もう、どうでもいいんだから……。
社長のことも、元彼のことも、二度と関わらないんだから忘れてしまえばいい。
「――ねえ、下で話してたの、誰? あれが噂の、元彼?」
そうやって半ば必死になって自分に言い聞かせていたというのに、突然耳元でささやかれて心臓が跳ねる。
「元彼」という単語にキーボードの上の指が大げさに震える。
「ちょっと……声が大きいっ……」