身勝手な恋情【完結】
落ちた髪を捨て、手を洗う。ハンドクリームを塗ってからパウダールームをあとにする。
「社長が恋なんてありえない……」
恋なんて、しないで。
どうせ相手にされないのなら、ずっと低体温なあなたでいて欲しい……。
本心は言えないまま、腕時計に目を落としながらそんなことを口にしたその瞬間。
「――へえ……?」
少し鼻にかかったハスキーボイスが頭上から響く。
え?
顔をあげると、社長が立っていた。
しかもたった一人で、まるで私を待ち伏せしていたかのように、腕を組み、壁にもたれるようにして立っていた。
一番上のボタンを外した白いシャツ、黒のパンツ、黒のジャケット。緩いくせのある黒髪は、まるでかきまわしたみたいにくしゃくしゃになっている。